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コグニティブ・コンピューティングとは?AIとの違いや導入のメリットを解説

コグニティブ・コンピューティングの概要やAIとの違い、導入するメリット、実用例などを解説します。

コグニティブ・コンピューティングとは?AIとの違いや導入のメリットを解説

コグニティブ・コンピューティングの概要やAIとの違い、導入するメリット、実用例などを解説します。

知識・情報

2021/03/02 UP

「コグニティブ・コンピューティング」は、テクノロジーの分野において近年注目されている新たな概念です。この概念を提唱したIT大手のIBMは、コグニティブ・コンピューティングを人間の能力を補う「拡張機能」と位置付け、コグニティブ・コンピューティングを活用したサービスはすでに幅広い業界で実用化が進んでいます。

本記事では、コグニティブ・コンピューティングの概要やAIとの違い、導入するメリット、実用例などを解説します。

コグニティブ・コンピューティングとは?

「コグニティブ・コンピューティング」は、単に与えられた情報を処理するだけの機械ではなく、人間のように自ら理解、推論、学習できるシステムです。

そもそも「コグニティブ」とは、アメリカの大手IT企業・IBMが提唱した新しい概念で、日本語では「認知の」「経験的知識に基づく」といった意味があります。

従来のコンピューターでは数値や単純な文章などの構造化データしか理解できませんでしたが、コグニティブ・コンピューティングでは、画像や音声、自然言語、表情といった非構造化データにまで分析対象を拡大します。世界に存在するデータの約8割は非構造化データともいわれ、コグニティブ・コンピューティングを活用すれば、より複雑で膨大なデータの処理が可能です。

コグニティブ・コンピューティングは非構造化データを自律的に判断・処理するため、同じインプットを与えたとしても毎回同じアウトプットが得られるわけではありません。つまりコグニティブの世界では、複数の選択肢のなかから状況に応じて最善の答えを導き出せるのです。

AIとの違い

コグニティブ・コンピューティングは、しばしばAI(人工知能)と混同されがちです。どちらもデータを解析して自己学習する点では同じですが、それぞれコンセプトが異なっています。

AIの目的は、これまで人間が行なっていた業務を代行することです。AIがこのまま進化を続ければ、いずれAIと人間の能力が逆転する時点である「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎えるといわれています。

その一方、IBMが自社のコグニティブ・コンピューティングシステム「Watson(ワトソン)」を「拡張知能」と位置付けているように、コグニティブ・コンピューティングの目的は人間の意思決定を支援することにあります。

コグニティブ・コンピューティングが発展すれば、人間の仕事を奪われる未来ではなく、人間とAIが共存する社会を実現できるかもしれません。

コグニティブ・コンピューティングが可能にすること

コグニティブ・コンピューティングが可能にすること

コグニティブ・コンピューティングは、構造化データと非構造化データの両方を取り扱うことで、見る、聞く、話す、読む、考えるといった人間のあらゆる認知能力をサポートします。

それにより、あふれる情報のなかで人間はより良い判断をできるようになります。また、今まで人間の判断が必要だった業務を代行して作業時間を短縮する、人間の力では処理しきれないビッグデータを解析するといったことも可能になるでしょう。

コグニティブ・コンピューティングを導入するメリット

企業がコグニティブ・コンピューティングを導入すると、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。以下で説明していきます。

人為的なミスの削減

コグニティブ・コンピューティングは人為的なミスの削減に貢献します。

例えば、製造業における外観検査では、これまで人の目で良品と欠陥品の仕分けを行なっていたため、欠陥品を見逃して出荷してしまう、検査員の経験値によって判定に差が出るといったケースもありました。しかし、検査精度を高めるために製造ラインの速度を落とせば、それだけ生産性が低下してしまいます。

そこで有効なのが、コグニティブ・コンピューティングを応用した外観検査です。システムに欠陥品の画像データを与えれば、どのような製品が欠陥品と判断されるのかを自己学習するため、人間の感覚や経験に頼るよりも正確で安定した判定が可能になります。

学習を繰り返すほど回答の精度が上がる

コグニティブ・コンピューティングは、学習すればするほど回答の正確性が高まります。

最初の段階では、機械学習に使うサンプルデータを用意する必要がありますが、多くの知識が蓄積され、学習が繰り返されるほどシステムは成長します。人間の手で教育を行なわなくてもエラーや改善点が自動でフィードバックされ、より細かい判断が求められる業務にも対応できるようになります。

コグニティブ・コンピューティングを利用した代表的なサービス

コグニティブ・コンピューティングは、すでに実用的なサービスとして提供され、多くの企業で活用されています。代表的なサービスを見ていきましょう。

IBM「Watson」

コグニティブ・コンピューティングの世界をリードするのが、IBMの「Watson(ワトソン)」です。言語解析、画像認識、音声認識などの機能をAPIとして公開しています。

Watsonがカバーする業種・業界は幅広く、顧客対応、医療、教育、広告、人材育成、セキュリティーなどさまざまです。国内での導入実績には、日本航空やソフトバンク、パナソニック、楽天、三井住友銀行など大手企業が名を連ねています。

Microsoft「Azure Cognitive Services」

「Azure Cognitive Services」は、Microsoft Azureが提供するAI関連製品の一つです。Watsonと同様にAPI経由で提供されており、学習アルゴリズムの構築や学習データの用意が必要ないため、機械学習の専門知識を持たない開発者でも利用できます。

AIをビジネスに活用するためには専門的な人材の確保が不可欠ですが、Azure Cognitive ServicesならAI導入のハードルを下げ、開発と運用にかかるコストを削減することが可能です。

コグニティブ・コンピューティングの活用が期待されるシーン

コグニティブ・コンピューティングの活用が期待されるシーン

コグニティブ・コンピューティングは、あらゆる業界・業種での活用が期待されるシステムです。ここでは、現在コグニティブ・コンピューティングが導入されているおもなシーンをご紹介します。

マーケティング業界

マーケティング業務では、MA(マーケティングオートメーション)によってリード管理やメール配信の自動化が実現していますが、これらは業務の一部でしかありません。コグニティブ・コンピューティングを使えば、従来は人間の判断が必要だったデータ分析や仮説の立案なども含め、完全な業務の自動化を実現できるようになります。

例えば、Webサイトの閲覧情報やSNSの利用状況などから顧客の関心を収集・分析し、顧客のニーズが顕在化したタイミングでおすすめ商品を紹介する、ということが可能です。分析対象となるデータが構造化されていなくても、効果的なマーケティング施策を実行できます。

カスタマーサポートやコールセンター

コグニティブ・コンピューティングは、カスタマーサポートやコールセンターにおける顧客対応の負担軽減にも効果的です。

音声認識技術を使えば、顧客との会話からおおまかな要件を把握して適切な部署に電話をつなぐ、顧客の発話内容をテキスト化して事前にオペレーターに通知する、といったことが可能になります。単純な質問に対してはチャットボットが自動で回答するため、オペレーターの通話時間短縮や人件費の削減にも役立ちます。

製造業

現在、製造業界では設備のIoTによって、多くの作業を自動化できるところまできています。そこに、コグニティブ・コンピューティングの仕組みをプラスすると、工場内のセンサーから収集されたビッグデータを使い、設備状態の遠隔監視や故障の予測ができるようになります。

将来的には、工場運営そのものを自動化できるようになるかもしれません。また、属人化した技術や知識をコンピューターで処理することで、熟練工のノウハウを継承していくことも期待されています。

その他の活用シーン

上記で取り上げた事例以外にも、コグニティブ・コンピューティングはさまざまなシーンでの活用が見込まれています。

例えば、書類記入やタブレット操作のサポート、銀行や店舗でのコンシェルジュ、高齢者介護施設での話し相手などが挙げられます。会話型のロボット技術と融合したコグニティブ・コンピューティングの導入事例は、将来的にますます増えていくでしょう。

コグニティブ・コンピューティングは人間とAIの共存を目指す

コグニティブ・コンピューティングは、数値などの構造化データだけでなく、音声や自然言語、表情といった非構造化データも分析対象とし、機械学習を繰り返しながら処理の精度を高めます。技術的にAIと混同されることもありますが、AIとコグニティブ・コンピューティングとではコンセプトがまったく異なります。

AIはコンピューターを人間のように思考させる試みであり、人間の仕事を奪う脅威でもあります。それに対し、コグニティブ・コンピューティングが目指すのは人間とAIの共存であり、人間の認知機能をサポートすることです。

コグニティブ・コンピューティングは、顧客対応やマーケティングの分野を中心にすでに導入が進んでいます。API経由で利用できるサービスも提供されているため、導入に必要な人材と予算の確保が難しかい企業の間でも、これから活用が広がっていくのではないでしょうか。