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渡辺千賀のはたらけシリコンバレーvol.4 バブルがくるくるやってくる
シリコンバレーで働くということ(1/2)

2008.01.07
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パロディソング「またバブルが来たぞ」

最近インターネット上で人気なのが「Here Comes Another Bubble(またバブルが来たぞ)」というパロディソング。90年代後半のインターネットバブル、その崩壊、そしてここ数年のバブル再来に翻弄されるシリコンバレーの姿をおもしろおかしく歌ったものだ。

演奏、ビデオ制作はThe Richter Scalesというグループの合作となっている。このグループは、シリコンバレーのアマチュア合唱団で、メンバーはほとんどが技術系の会社につとめる人たち。グループのサイトにあるメンバーリスト( http://www.richterscales.com/meet )には、本名、顔写真、勤め先が列記されている。この辺り、匿名文化の日本では考えられないことだが、その勤め先には、Pixar Animation StudiosやGoogleといったメジャーな会社名が並ぶ。Here Comes Another Bubbleは、そのメンバーの一人で、イーベイ傘下のペイパル社のシニアプロダクトマネジャーをつとめるMatt Hempeyという人が作詞した。

歌はグループのサイト( http://www.richterscales.com )で聞くことができる。

歌詞の中身は、ここ10年ほどシリコンバレーにいる人だったら、単におかしいだけでなく、バブルに踊った恥ずかしい過去を思い出してコソバ痒くなったり、苦しかった昔を思い出してペーソスまで感じるかもしれない。

そして、立て板に水の早口で歌われる歌詞には、ここ10年のシリコンバレーの姿を象徴する出来事が詰まっている。ちょっと大げさに言うと、「起業の生態系の真実の姿」もそこにはある。というわけで、以降「シリコンバレー文化経済風俗史」的に歌詞を解説したいと思います。

バブル崩壊

歌は90年代のインターネットバブル時代に始まる。 「東海岸の大学を優等で卒業、チャンスを求めてシリコンバレーにやってきて、webvanに就職した。」

ああ、webvan。バブルの絶頂期に創業、1999年末に上場、2001年に倒産した「生鮮野菜デリバリーベンチャー」である。膨大に資金調達をし、莫大に散在し、華々しく散っていったことでシリコンバレー史に名を残した。最盛期には、1000億円を超す倉庫建設を発注し、巨大なデリバリートラックを揃え、一脚10万円の事務椅子アーロンチェアを100脚以上購入。上場後は、売上げが1300万ドル(15億円程度)しかないのに、40億ドル(4500億円)の企業価値がついた。

(このwebvanに比べると、Facebookの売り上げは今年で2億ドル、200億円超、とされているだけちょっとまし。)

webvanが倒産した際には、清算オークションが行われ、デリバリートラックは他の会社に買われた。バブル崩壊後の2001年、2002年頃は、シリコンバレーのあちこちでwebvanのロゴが入ったトラックが走っていて哀れを誘ったものである。

さて、歌は、バブル崩壊後の苦しい生活へと移る。いわく Pink slips, burger flips, would you like some fries?
「ピンクスリップ、バーガーフリップ、ポテトもご一緒にいかが?」
ピンクスリップは「解雇通知」のこと。1915年に最初に使われた言葉で、当時は解雇通知はピンク色の紙に印刷されていたらしい。今ではピンクではないが慣用的に使われ続け「I got a pink slip」と言えば「クビになった」という意味になる。

バブル崩壊後、シリコンバレー景気が底にあった2002-2003年頃は、一旦失業すると次の仕事を見つけるのは大変困難だった。もともとアメリカでは、求人内容よりレベルが高すぎても低すぎても採用しない傾向が強い。低すぎるのがダメなのは当然として、高すぎるのがなぜダメかというと、採用しても本人の志気が上がらない、すぐ辞める、といった弊害があるからだ。一方、2003年初頭は、まだ上場の1年以上前のグーグルですら一日1000通の応募があった時代。当時は、経験と学歴の両方があっても、「ドンピシャのポジション」がないと採用してもらえないのが普通だった。

結果、1年、2年と失業期間が続く人も多く、背に腹は代えられないと、管理職で大学院卒という経歴を隠して店員になる人、エンジニアだったのにカーペット張り施工職人に転業する人などが続々と登場。

歌の「バーガーフリップ」とは、ハンバーガー屋の厨房で働くことを指す。実際、私の知人で、スタンフォードMBAという学歴でありながら、大学のすぐそばのアイスクリーム屋で制服を着てアイスクリームを売っていた人もいて、彼はビジネスウィーク誌の記事にまで取り上げられた。

そんなシリコンバレーの労働市場は、「サーブが入ったくらいで安心してはならないテニスの試合」のようなものだ。

日本では、一流大学を出て大企業に入れば、よほどのことがない限り路頭に迷うことはない。落ちこぼれが東大に入るというマンガ「ドラゴン桜」にも「東大行きという超極上のプラチナチケット。これを買えば、旅の初めは大変だが、あとには見事な絶景と快適な列車が待っている」という台詞が出てくる。これはつまり、「東大入学」という「サーブ」が入れば、後は少々流しても何とかなってしまうテニスの試合状態ともいえる。一方アメリカ、特にシリコンバレーでは、どんなに良い大学を出ても、ちょっとした景気の変遷で簡単に路頭に迷う。 誰にでも新しいものに挑戦するチャンスがある代わりに、誰にでも培ってきたモノを失うチャンスがある。会心のサーブが打てたと思っても、超絶リターンが帰ってくることを前提に心して構えなければならないのである。

バブル崩壊時は、アイスクリーム屋に身をやつす人以外にも「シリコンバレーを出て他のところに引っ越す」人も大勢いた。当時はまことしやかに「シリコンバレーのレンタルトラック屋はトラックが払底。みんなシリコンバレーからよその地域に引っ越す人ばかりで、誰も入ってくる人がいないから」と言われたものだ。

つらい時期でありました。

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渡辺千賀プロフィール

渡辺千賀

シリコンバレーのコンサルティング会社、Blueshift Global Partners ( http://www.blueshiftglobal.com/ ) 社長。 技術関連事業での日米企業間アライアンスと、先端技術に関する戦略立案を行う。 商社と戦略コンサルティング会社での経験を生かし、口も足も動くコンサルティングを実践している。 また、シリコンバレーで働く日本人プロフェッショナルをサポートするNPO、Japanese Technology Professionals Associationの共同代表も務める。 東京大学工学部都市工学・学士、スタンフォード大学MBA。 三菱商事、マッキンゼー、ネオテニーを経て現在の会社を起業。

Blog : On Off and Beyond ( http://www.chikawatanabe.com/

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