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渡辺千賀のはたらけシリコンバレー
vol.3 シリコンバレーで働くシミュレーション

2007.12.17
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最初のハードル:ビザ取得

もしあなたが、日本から飛行機に乗ってアメリカに渡り、シリコンバレーの会社で働こうと思ったら何が起こるだろうか。

まず必要なのがビザ。就労ビザなしでは働くことはできない。アメリカでは、 毎年40万人ずつが新たに諸外国から合法的に流入するのだが、アメリカで働きたいと思っている人はその何倍もいる。ゆえにビザ取得は大変である。そして、 就労ビザは雇用先の会社が申請してくれるものなので、まずは就職先が必要となる。

しかし、就労ビザを取るのは結構大変。シリコンバレーで働く人の場合、最も多いのがH1Bと呼ばれる就労ビザだが、これには毎年制限人数がある。毎年10月から使えるようになるビザの申請が4月に始まるのだが、2007年は受付開始初日で制限数オーバーとなってしまった 。つまり、10月から仕事をするためには、4月までに会社から採用通知をもらわないとならない。

一方、シリコンバレーの会社では、面接をして採用が決まったら 「明日から働いて」 という感じになることが多い。「4月までに採用しても働き始められるのは10月」なんていう悠長なのは嫌われるし、ビザ申請費用だってかかる。

というわけで、ビザなし人間が仕事先を見つけるハードルはかなり高い。

が、これを迂回する方法ももちろんある。

一つはグリーンカードに抽選で当たること。グリーンカードはアメリカ永住権で、当然仕事もできる。日本からだと大体100倍の確率であたるようだ。これは、インドや中国と行った国から応募するのに比べるとずいぶん緩い倍率らしい。とはいうものの、これも狭き門ではある。

王道はアメリカの大学を卒業すること。practical trainingと呼ばれる12ヵ月の就労ビザが出るからだ。この間に就職してしまい、就職先でH1Bを申請してもらう。「留学する」という時点でハードルが高いと思うかもしれないが、その後のことも考えると、これは実は楽な道でもある。理工系の学部だったら、奨学金や、教授の手伝いをしてもらう給料もあるので、それほど自己資金もいらない。

そんな「迂回路」は嫌だ、というあなたは、たとえ難しくても直接現地企業に就職することになる。 「ぜひあなたでなければこの仕事はできない」 と会社が思ってくれれば、万難を排して日本に住むあなたのためにH1B申請をしてくれる。「ぜひあなたでなければ」と思ってもらう方法としては

  1. Craigslist ( http://sfbay.craigslist.org/ ) , Monster.comなど、オンライン求人情報で職探し。これは、と思う会社に直接応募する。
    (しかし、これも唐突に日本からやるのはハードルが高い。応募用の履歴書の書き方からして日本と違うので、そこから始めないとならない。)
  2. オープンソース開発に参加、実績を見せて認めてもらう
    オープンソース開発は、スポンサーする企業があることも多いが、そうした会社はオープンソースを人材発掘の場とも考えている。なので、ここで名が知られて「ぜひ」となることは十分ある。

もちろん、これ以外にもいろいろな方法はあるが、相当運に支配される。よい機会があったら、さっと掴むのが肝要である。

生活基盤の整備

さて、無事H1Bが取れ、アメリカに来たとする。そこでまず頭をかきむしるのが生活基盤の整備だ。

まず、アメリカの生活に欠かせないのがクレジットカード。しかし、クレジットカードを発行してもらうには「クレジットスコア」なるものが必要である。これは、 「それまでの人生で、どれだけ借金をちゃんと返してきたか」 という「クレジットヒストリー」に基づく点数である。貯金がどれほどあってもクレジットスコアはあがらない。「借金」をして、かつそれを「ちゃんと返した」、という証が必要なのである。クレジットカード以外でも、ローンを借りる、住宅を賃貸する、就職する、等々いろいろな局面で「個人の信用」として、このクレジットスコアがチェックされる。

が、外国からやってきたばかりの人間にクレジットヒストリーがあるはずもない。「クレジットカードで買い物をし、それを翌月返済する」というのも立派な借金返済なのだが、 「クレジットカードがない」

「クレジットヒストリーができない」

「クレジットカードが作れない」
という堂々巡りとなる。(最近は、日本で培った信用を元に発行してくれるカードが一つできてずいぶん楽になった。しかし、それでも、クレジットスコアがあがってくるまでの数年間、アメリカ生活はあれこれ大変。私も、最初の数年、必要ない借金までして返済記録を作ったものです。)

さらに、シリコンバレーの生活で必要なのが「車」である。車がないとどこにも行けない。

そして、車を運転するには免許が必要なのだが、DMVと呼ばれる試験所は、車でないと行けないところにある。しかも、免許を取るための路上実技テストを受けるには、自分の車を持ち込まなければならない。 「車に乗るために免許を取ろうとしてるのに、どうして車が必要なんだ」 と叫びたくなる。(国際免許で渡米、さっさと車を買って、その車で免許を取りにいけばよいのだが、なかなかそう手際よくできないもの。)

銀行口座を開設しようとすれば、「住所を証明するために公共料金の領収書をもってこい。」などといわれたりもする。 「だから、公共料金支払いのために銀行口座が必要なんだってば」 と叫んでも、誰にもその叫びは届かない。

さらに、ありとあらゆる手続きで間違いが起こる。ソーシャルセキュリティカードに記載してある生年月日が100年昔だったり。電話が中国人として登録され、やってくる請求書類はみな中国語、カスタマーサポートに電話しても、いきなり中国語で返答されたり。

最後のハードル:グリーンカード

さて、そうした苦悩を一つ一つ解決し、生活に支障がなくなった頃には、アメリカ生活もずいぶん楽になっている。クレジットスコアさえできれば、借金も借家も楽勝。「保証人を入れろ」などという面倒なことはいわれないので大変気楽。

そしてやってくる最後のハードルが 「グリーンカード(永住権)取得」 である。

H1Bビザは、会社にひも付きなので、その会社を辞めると自動的に切れてしまう。H1Bを移管して転職することも不可能ではないが難しい。また、レイオフされたら、すぐ次の仕事を見つけないとアメリカを出て行かなければならない。 しかも、H1Bは最長6年しか延長できない。

というわけで、安心してシリコンバレーの不安定な雇用状況をエンジョイするにはグリーンカードは欠かせない。しかし、これまた就職先から申請してもらわないとならないのである。会社側は、グリーンカードを取ったら社員がさっさと辞める可能性が高いことを知っているので、申請を渋ることもあるし、その一方でよい人材を獲得するためのエサとして「グリーンカード申請」を約束することもある。いずれにせよ、「グリーンカード申請してね」と会社に交渉しなければならない。

この「グリーンカード問題」のため、「結婚の理由」が「レイオフ」というのも耳にする。つまり、 1. アメリカ市民とH1B所有者がつきあっている
2. H1B所有者がレイオフされる
3. そのままでは、H1B所有者は国外退去するしかない
4. しかし、アメリカ市民と結婚すればグリーンカードが取れる
ということで、「この際結婚しよう」となるわけ。 「できちゃった婚シリコンバレー版」 とでもいうべき「レイオフ婚」である。日本人男性で、職を失ったその日にアメリカ市民のガールフレンドに電話でプロポーズ、承諾してもらってセーフ、という強者もいる。

かように「アメリカ市民と結婚する」というのはグリーンカード取得の最強の裏技なのであるが、ここに素早く到達しようと焦ってはいけない。

私の知人の女性は、とある外国人男性を紹介され、まずは電話で話してみよう、ということになったのだが、この最初の電話で、 「ところで、君、アメリカ市民権持ってる?」 と聞かれ、相手の下心に幻滅、それきりになったとのこと。気をつけましょう。

さて、以上、いろいろと 大変そうだと思うかもしれないが、実は意外に楽しかったりする。「H1B」「免許」「クレジットカード」「グリーンカード」とアイテムが増える毎に世界が広がるロールプレーイングゲームのようなもの。

しかもシリコンバレーでは、技術系の方がビジネス系より給料が高い上、 仕事も9-5時が基本。終わりなきデスマーチもありません。

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渡辺千賀プロフィール

渡辺千賀

シリコンバレーのコンサルティング会社、Blueshift Global Partners ( http://www.blueshiftglobal.com/ ) 社長。 技術関連事業での日米企業間アライアンスと、先端技術に関する戦略立案を行う。 商社と戦略コンサルティング会社での経験を生かし、口も足も動くコンサルティングを実践している。 また、シリコンバレーで働く日本人プロフェッショナルをサポートするNPO、Japanese Technology Professionals Associationの共同代表も務める。 東京大学工学部都市工学・学士、スタンフォード大学MBA。 三菱商事、マッキンゼー、ネオテニーを経て現在の会社を起業。

Blog : On Off and Beyond ( http://www.chikawatanabe.com/

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